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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
――四顧すれば海や空や本土のあなたにも、皇学新興の力、反徳川思想がみちみちて、ひとたび、この渭之津の城からのろしをあげれば、声に応じて西国の諸大名、京の堂上、それに加担するものなどが、ときの声をあげるだろう。
重喜の眸は、そんなことを想像しながら、時の移るのを忘れていた。
「だが? ……」
ふと、自分で自分に反問する。
「大事――未然に洩れては、すべての崩壊だ。この城、この国、一朝にして、資本も子も失くすことになる」
望楼を歩きながら阿波守、しきりに苦念の様子である。ゆるく、的なく、一歩一歩と踏む足には力をこめたが、胸底の憂暗、かれの横顔をおそろしく青くみせた。
「堂上方を中心として、竹内式部、山県大弐、そのほか西国の諸侯数家、連判をなし血誓の秘密をむすび、自分はすでにその盟主となっている。今に及んで、卑怯がましい、なんの、これほどの大事をあぐるに!」こう、動じやすい意志を叱って、唇をかんだ。
「よしや、江戸表で、うすうすぐらいな疑いを持つとも、城壁の改築や、造船の沙汰ほどなら、いくらでも言い解く口実の用意はある」
さらに、強くなれ、強くなれ! とそこで、徳島城を踏みしめた。