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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「そうだろう、もう一ツくんな」
「ありがとうございます」
代りを取って側へ置いた。
「ところで俺の来る前に、ここへ二十四、五になる女が見えなかったろうか」
「お女中様でございますか」
「そうだ、俺の風態を見て、ザラにあるお女中と間違えちゃいけねえぜ、スラリとした柳腰よ、ふるえつくようないい女なんだ」
「さあ? ……商売に気をとられて、ツイどうもうッかりしておりましたが」
「見かけなかったかえ?」
「お見かけ申しませんでしたね」
「じゃ、やっぱり来ねえのかしら」
「この船へ乗って立つお方でも、見送りにおいでなさるんですか」
「そうじゃねえ、俺がお供をして阿波へ帰ろうという人なんだ。やがて時刻も迫ってくるのに、だから、こっちも気が気じゃあねえところさ」
といっていると、向うに立った編笠の侍が、
「うどん屋、子供の食べた代を取ってくれい」
「二十四文でございます」
うどん屋が揉み手をすると、浪人は紙入れの内から二歩銀を一つつまんで、
「これへ置くぞ」
と屋台へ乗せた。
「あ、恐れ入りますが、細かいのを持ちあわせはござんすまいか」
「つりは要らん……ところで……しばらくの間邪魔ではあろうが、この二人の子供をここに預かっておいてくれぬか、だいぶ疲れておるのでな」