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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens

Aozora Bunko

と、チャリンという鍔鳴りの音が、かれの瞬間な陶酔をさました。

後ろ向きになった有村は、血糊をしごいて、刀を鞘に納めた。そして、紅をなすった懐紙を捨て、松兵衛や新吉へは、いずれ後日沙汰あるべきことをいい渡し、固唾をのんでいた原士たちへはつづらの始末をいいつけている。

「はっ」

と、黒い影が右往左往に動きはじめる。だが、前よりは妙に静かだ。どんな場合にでも、人の死の前に立って生ける者は、何か考えずにはいられない。精悍なかれらも、暗黙のうちにはそれぞれの感想を描いているのだろう、自然、憂鬱な運動となり、妙に静かに働いている。

そのうちに、かれらは細曳を手繰り、二つのつづらをがんじがらめにくくりだした。なお、残る一つのつづらへも、念のために槍や刀を突っ込んでみたが、それは、何の手応えもなかった。

「この下へ寄せろ! その艀舟を」

つづらは、ズ、ズ、ズ、と左舷へ引きずられて行った。

あとの鮮血は目もあてられない。

太陽があったら燃えあがるだろうが、星明りでは黒い液体でしかない。だが、なんとなく、生きている、うごいている、うなずいているように感じられる。

つづらは、がんじがらめのまま、さっき、原士たちが乗ってきた小舟の一つへつり下ろされた。