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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens

Aozora Bunko

鳴門秘帖

吉兆吉運

吉兆吉運

それから四、五十日の日が過ぎた。

暑い。

南国らしい暑さの夏!

雄大な雲の峰の下に、徳島の城下は、海の端に平たく見えて、瓦も焼けるようなギラギラする陽に照らされている。

カチ、カチ、カチ! たえまのない石工の鑿のひびきが、炎天にもめげず、お城のほうから聞えてくる。町人の怠惰を鞭うつようだ。

徳島城の出丸櫓は、もうあらかた工事ができている。今は、いつか崩壊した石垣の修築が少し残っているばかり、元気のいい鑿の音は、そこで火を出しているひびきである。

阿波守重喜も、その後、めっきり快方に向っていた。

ひと頃、家臣たちが眉をひそめた、病的な乱行も止まって、今では、神経衰弱のかげもない程、まっ黒に日にやけている。

あまたの若侍と一緒に、徳島城の大手から津田の浜へ、悍馬をとばしてゆく重喜の姿をよく見かける。

水馬、水泳、浜ではさかんな稽古である。ある時は、家中をあげて、陣練、兵船の櫓稽古などが行われた。

今日も阿波守は、水襦袢に馬乗袴をつけたりりしい姿で、津田の浜のお茶屋に腰をすえ、生れ変ったような顔を潮風に磨かせていた。

そして、白浪をあげて乗り廻している水馬の群れを眺めて、時々、ニッコとさえしている。