Japanese reading practice

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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens

Aozora Bunko

アア、気のせいといえば、うちの良人もどうしたのだろう? ……」

そのまま、しばらく欄干に、片肘をもたせて休んでいたお吉は、お米のことを思い消すと一緒に、より強く、良人の万吉の安否がひしと胸にわいてくる。

江戸へ行ったということだけは、たしかに聞いているけれど、以来、手紙一本よこすではなし、一言半句の人伝をしてくることもなく、去年の秋から冬を越して、もうやがて、この春も、また沙汰なしに暮れようとしている。

「薄情というのか、男気というものか。いくら目明しの居所知らずといっても、家や女房まで忘れてしまわなくってもよさそうなものだけれど……。ああ、考えまい、思いつめると今のように、他人の後ろ姿までにハッと動悸を打ってしょうがありゃしない」

気を取りなおして橋を渡った。

そしてまた、今日も、その信心にゆくのらしい。木綿縞にジミな帯もいつに変らず、装いもなく巻いた髪には、一粒の珊瑚珠だけが紅かったけれど、わずかなうちに、削ったような痩がみえる。

お吉の影がそこを去ったと思うと、まもなく、一方の艀が空になって、川筋を戻ってきた。

もうその頃、陸へ上がったお米と宅助とは、長浜の河岸から本願寺の長土塀に添って、ぶらりぶらり肩をならべてゆく。