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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「ばかな女だ!」
グイと、横にくわえた鮒焼の串で、ムシャムシャ食ったあとの歯をせせりながら、毒々しいことばづかい。
「――考えてみるがいい、お前は親も屋敷も身寄りもねえひとりぼっち、孤児だろう、宿なしだろう。――それを旅川が不憫がって、自分の妻に立て、駿河台の元の屋敷に住むように――いや、それよりもっと栄耀をさせてやろうというんじゃねえか。何をメソメソ泣くことがあるんだ」
「嫌です……」
お千絵は泣きふしながら頭をふった。
「嫌だ?」
「…………」
「罰があたるぞ、冥利を知らねえと」
「いやです……」
「生意気な」
くわえていた鮒の串を弾いて、堀田伊太夫、膝を立てかけてきたので、お千絵は思わず身をちぢめた。
と、かれは、縁がわの方へ足を運んだ。
飛脚屋が何か渡して、破れ垣根の外へ出てゆくのを見送ってから、
「……噂をすれば……」
うなずいて封を切る。
そして切った封を裏返してみて、
「――おう、旅川はもう大阪表へ来ていたのか」
とつぶやきながら読みだした。
伊太夫の顔の筋が異様にひきしまってきた。読むと、周馬は今大阪の某所に潜伏しているとのこと、しかし秘帖をとり返そうとする阿波の追手や、弦之丞が血眼なので、容易に姿を出すことができない。