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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「今帰ってきたのかえ。そして、家の方は? ……」と訊いた。
「しっ……」
と、こんどは手を振って、お吉の眼がきつくそれを抑えた。ピタリ、ピタリという無気味な足音が、さっきから家のまわりを廻っていたが、お吉が針箱を置きに立つと一緒に、
「ご免――」
といいながら、上がり口に、ぞろりと三つの影が立ちふさいだ。
「はい」
おそるおそる手をつくと、
「ここは目明し万吉の家だな」
端にいる編笠の男がいった。
「はい……」
「お前はその万吉の女房だな」
「さようでございます」
「万吉は帰ってきたか、江戸表から」
「いいえ、まだ戻っておりません。けれどあなたがたは?」とお吉が、三人三様の風態をながめて、何者かしらと疑っていると、それには答えないで、
「何か便りがあったろう」
「少しも沙汰なしで、只今どこにいることやら、それすら存じておりませぬ」
「嘘をつけ! 女房であって、亭主の居所を知らぬという筈はなし、また主であって、家へ居所を知らせてこないという筈はない。たしかにその万吉は、四、五日前に、いちど此家へ姿を見せたろう、イヤ、たしかにこの大阪へ帰っている訳だ。有態にいえッ」
「でも、只今申し上げたことには、少しも偽りがございませぬもの。