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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

Read あさひの鎧 (あさひのよろい) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 239,520 characters · 475 screens

Aozora Bunko

「袈裟太郎や」

と桂子は云った。

「お前の早い歩き方で、京の二条の館へ行き、小次郎にすぐにここへ来るように、そう伝言しておくれ」

「かしこまりましてございます」

袈裟太郎は引っこんだ。

一日五十里は走るという、その袈裟太郎の風のような姿が、夜の比叡山の裏山の木の間を、やがて京の方へ走って行くのが見られた。

桂子は筆を運ばせて行った。

高殿の欄干には姫が一人

湖水の小船には武士が一人

と、不意に歌声が聞こえて来た。

浮藻の歌っている歌声であった。ムラムラと桂子の胸の中へ、嫉妬と憎悪との思いが湧いた。

(小次郎がここへ来ることを知って、浮藻め心をソワツカせ出したわ!)

こう思ったからである。

浮藻が小次郎を恋していることは、数年前からのことであった。小次郎の方でも浮藻を愛し、恋していることも数年前からで、桂子は自分が小次郎に対し、恋の想いをかけなかった頃には、むしろ二人のあどけない恋の保護者であり、誘導者でさえあったが、自分が小次郎を焼きつくばかりに、恋するようになってからは、浮藻と小次郎との恋仲が、嫉ましいものの代表となった。

(浮藻さえなくば! 浮藻さえなくば!)