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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
Read しじみ河岸 (しじみがし) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 25,438 characters · 51 screens
「ええまあ」と源兵衛はあいまいにうす笑いをし、それから急になにかをうち消すような調子で、「しかし旦那は渋うがすからな」といった。
律之助は直次郎の言葉を思いだした。源兵衛が「旦那は渋いから」といった。その「旦那」が記憶をよび起こしたらしい。
――わからんな。
若旦那だ、と律之助は思った。
「ええと」と彼はいった、「相模屋には息子が二人いた筈だな」
「相模屋さんにですか、いいえ」
「二人じゃあない」と彼はまたいった、「するとあれはひとり息子か」
「清太郎さんですか」
「うん」と律之助はいった、「私はてっきり二人いるんだと思った」
源兵衛は黙った。律之助は源兵衛を見た。源兵衛は黙っていた。律之助の胸はどきどきした。彼は「面倒をかけたな」といって、差配の家を出た。彼の頭は回転し始めた、さっきなにかがはじけたように感じたが、それからしだいに思考がまとまってゆき、中心がはっきりうかびあがって、それを軸にくるくると回転し始めたようであった。
彼は平野町の番所へ寄った。そして、番太の一人を外へ呼びだした。
「おまえに頼みがある」と律之助は囁いた、「明日相模屋の清太郎をお手当にするから、逃げないように見張っていてくれ」