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チェーホフのたんぺんについて
カシタンカ・ねむい 他七篇
神西 清
Read カシタンカ・ねむい 他七篇 (チェーホフのたんぺんについて) by 神西 清 (じんざいきよし) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 46,418 characters · 92 screens
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こうして伝説の聖者チェーホフの像がわれわれの前に立つのである。……
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だが公平を期するためには、反証も考慮に加えなければなるまい。しかも聖チェーホフの像から円光を剥ぎとるような証言は、眼をすえて見れば決して少いどころではないのだ。
中学や大学の級友たちの証言を綜合すると、少年チェーホフは当時の中学生を熱狂させた社会問題や政治事件に対して全く冷淡であった。つまり附和雷同性が皆無であった。謙遜ではあったが、それは要するに自己批判の過剰から来ているらしく、且つそれは商家の子弟に共通する性質でもあった。大学に入ってからも彼は孤独ずきで、ほとんど誰とも親交を結ばなかった、――ということになる。兄アレクサンドルが『アンクル・トム』を読んで泣かされたと書いてよこしたのに対し、十六歳のチェーホフはやや冷笑的な調子で、――僕もこのあいだ読み返してみたが、まるで乾葡萄を食いすぎた時みたいな嫌な気持がした、と答えている。彼の非感傷性の早期発生を物語る有力な証拠の一つだろう。
小説家セルゲーエンコは中学の同級生のうち、チェーホフの死ぬ時まで交際を続けた唯一の人だが、その回想は結論的には、チェーホフはよく調和のとれた性格の人で、その言動には均衡と一致があったとしている。