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スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
Read スウィス日記 (スウィスにっき) by 辻村 伊助 (つじむらいすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 216,275 characters · 410 screens
ベルニナ鉄道 Bernina-Bahn
Der du des Pilgers Hoffnung bist!
をくりかえしたのもこの街道である。モンテ・シュプルーガの麓、メッツォラの湖水のふちを、北へみちびく坦道に白樺の落葉の、風に乱れる夕ぐれも、または芦の葉の鳴る、こうした日の暮れも、タンホイゼルの序曲のように、静かに聞えては、またかすかに消えてゆく、巡礼の歌は杳として絶えて、今、アルピの雪を仰ぐ行人の、耳にひびくのは、ベルニナ鉄道の汽笛である。
宿に帰ると、山寺の本堂のように、しーんと静まりかえった食堂に、相客が二人、オーベル・エンガディンの御百姓で、山ごしにこれから国へ帰ると云う、スウィスなまりも、故郷に近づいたようになつかしかった、ろくに話はわからなかったが。
西の風はなかなかはげしく、水ぎわの芦の葉がざわざわと、もとより浅間な宿に響いて、今宵はおちおち眠れなかった。
ベルニナ鉄道 Bernina-Bahn
何時になっても夜が明けないと思ったが、念の為に時計を見ると、もう八時を過ぎている。窓をあけて首を出すと、背戸の畑につづいて、雨を含んだ落葉松が二、三本、小屋の蔭には、昨日の鶏がやっぱり三羽ふくれかえって、さっぱりと晴れわたった昼過ぎでも、庭は蚯蚓、蛞蝓培養所と云ったようなのが、今朝は雲は暗く垂れかかって、成る程、いつまでも夜が明けない