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スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
Read スウィス日記 (スウィスにっき) by 辻村 伊助 (つじむらいすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 216,275 characters · 410 screens
眠ろうと思って眼を閉じても、頭は変にさえて来て、遥かな、土の底に響くアヴァランシュまで、寝るな寝るな、寝ればもう最後だぞと嚇かすように思われてならない。
今夜もやはり白ら白ら明けになるまで、まんじりともしなかった、アヴァランシュは時には耳元で続けさまに、または遠のいて遥かな国から響いて来る。しばらくうとうとして、本当に眼が覚めたのは六時頃であったろう、山の朝は仲々寒い。
晴れてはいるらしいが、狭い窓の向うは、鼻がつかえるようなアイガーグラートの絶壁で、南へ入り込んだアイスメーヤに面したここは、朝日をグェヒテンの連峰に遮ぎられておるから、夜はとうに明け放れても、日の光りを見ることは出来ない。七時過ぎに、ようやく床をはなれて、旅服にあらためると、すぐ食堂に下りて来た、表へ出ると、晩秋のころに見るように、朝の空気が冷やっとこたえて、身体が引き締まるような気がする。空は名残りなく晴れ渡って、前の細道を左に下りると、露を浴びた山草をわけて、アイスメーヤのほとりに出た。南の空を限るフィーシェルグラートは、朝日を一杯に受けて、蒼空に屹とぬけ出している。アイガーグラートからメョンヒ・ヨッホの方面は、クレヴァースの上に片蔭が出来て、赤黒く崩れた岩の破片が、氷河の上にうず高く盛り上って見えるのが、空気の澄んでいるためか、