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スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
Read スウィス日記 (スウィスにっき) by 辻村 伊助 (つじむらいすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 216,275 characters · 410 screens
やカードに日をつぶす折さえあった。
月の半ばには小雨が降って、二日も三日もうすら寒い日ばかり続いたが、雨上りの山の色は、暗い日の生活のわびしさを一掃して、ゆるやかな、然し寂しい心もちを運んだ、雨雲の晴れてゆくアーベントベルクの頂は、真夏も白く、樅の梢に、雪を頂くことさえある。
またある時は、澄み渡った蒼空に、ふうわりと根なし雲が浮いて、風のままに湖の空を渡って、ハルデルの樅にかくれるのを仰ぐ。
身は病みぬうす日の窓を開かせて空飛ぶ雲を憶ふ朝かな
と日記にあるのは、その折りのことと思う。
私はふと咽喉を痛めて、薬を飲んだり、湿布したりしても、咳ばかり出て少しも快くならなかった。オーベルシュウェステルはヤコニッシンである、余り話したことは無いが、私の身体を心配して、ヘヤ・ドクターは非常に御弱いようです、都会にいては身体がつづきません、グリンデルワルトあたりの山の空気が何よりいいのですがと話したそうだ、私には誰の言葉より一番うれしかった、今も私の知己の一人である。室に来る医者の一人は国境に去って、今残っているのは露西亜人だ、余り出来そうな男ではない。廻診に来ると握手して、二言、三言笑談を云って、クアザールの噂をして、チョコレートをさらって、シガーを失敬して出て行くを事とする、書生あがりだから、気の置けないのは事実