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ドナウげんりゅうこう
ドナウ源流行
斎藤 茂吉
Read ドナウ源流行 (ドナウげんりゅうこう) by 斎藤 茂吉 (さいとうもきち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 21,565 characters · 44 screens
三
美術行脚などをする人でも、やはりそうであろうか。
三
僕は銭を払って、伽藍の塔に昇って行った。狭苦しい石段を一つ一つ昇るのに、麦酒が廻って来ているので、動悸がしてならない。僕は目を瞑って休んでいると、下の方から活溌な足音がし出して、少年が僕をぐんぐん追越して行ったりする。僕が難儀してのぼるのに、幾人もこうして僕を追越してしまう。下の方から風があふり上げて来るので、これはなかなか気流が好く出来ているなどと思って休んでいたこともある。けれども僕は遂に頂上までのぼって行った。
天が美しく晴れて、其塔の頂上は風がなかなか強かった。手で掴まり下の方を覗くと町を歩く人馬がすでに蟻程になって見える。僕は眩暈をおぼえた。目を馴らそうとして下の方を暫らく見ていたけれども、そう急に馴れるものでない。
今しがた僕が汀に立ったドナウが遙か下の方に小さくなって見えている。その岸を歩く童子などは胡麻粒の様だ。けれども今度はドナウが婉々として国土を限ってながれて居るありさまが見える。北方はウイルテンベルクであり、南方はバイエルンである。かくの如く国を限ったドナウが西方にだんだん細くなって行くのを僕は見ている。