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ドナウげんりゅうこう
ドナウ源流行
斎藤 茂吉
Read ドナウ源流行 (ドナウげんりゅうこう) by 斎藤 茂吉 (さいとうもきち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 21,565 characters · 44 screens
川が見え出すと、「だいぶ細くなって来たな」いつも僕はそう思った。けれどもそれにはやはり錯誤があった。川が崖に沿うて走るようになり、白い巌壁からなる峡の鉄道橋を渡ったとき、ドナウが依然としてそう細くなってはいなかった。
Riedlingen 駅に六時半に着いた。太陽は向うの丘に傾いて、美しく晴れた空にその太陽の光が銀粉をまいたようにさしていた。ドナウに中華流の小橋が懸っていたりした。向うの山上に寺が建っている。ここでも羊飼がもう帰るところで、年寄った一人の媼が群羊を指揮して居る。そのうち太陽は紅く大きくなって落ちた。日がかげると山陰の村落の家々の白と黒との色の交錯のなかに寺の尖塔にいまだ幽かな光の残っているのなどが目についた。西に黄金の余光があり、そのうえに雲がしずかに棚びいた。
ドナウは山峡に沿うてしばらく流れた。大きな月が出たが、恰も満月であった。それがドナウを照らすと、ドナウは全く銀色になった。汽車は、Sigmaringen 駅に著いた。そこで僕は夕食の麺麭を買った。独逸人が二三人乗込んで来た。僕はひとり麺麭を食っていると、背嚢を棚へあげて僕のまえに腰かけた男が僕に話しかけた。