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いちにんならじ
一人ならじ
山本 周五郎
Read 一人ならじ (いちにんならじ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,312 characters · 21 screens
四
「突っ込め」
又七郎が絶叫した。その声を追いぬくように大助がとびだした。それはつぶてのようだった。彼は疾走しながら刀を抜き、架橋へとまっしぐらに走せ込んだ。橋を打ち毀っていた城兵たちは、これをみつけてなにか叫び、二三人が抜きつれて迎え討とうとした。しかし大助のうしろから突っ込んでくる五十人の先鋒をみて、とまどいをしたように城の中へ退却した。そのとき大助は架橋を走りぬけていた。見ると橋詰の一部が壊され、片方の大桁はまったく台石から外れている、多勢の重みが懸かれば橋は落ちるに違いない、彼は咄嗟に石垣へ身を支え、ぐいと潜り込みざま、外れている台石と大桁との間へおのれの右足を突込んだ。つまり自分の足をそのまま楔にかったのである、呼吸五つのひまもない咄嗟の機転だった。彼が足を楔にかうのと、ほとんど同時に先鋒隊が橋へ殺到してきた。そしてそのあとへ四郎勝頼の隊が怒濤の如く押し詰めた。……その人数と橋の重みの下で、楔にかった足の骨がめりめりと砕ける音を、大助は他人のもののようにはっきりと聞いた。
四
合戦は武田軍の勝に終った。そのとき箕輪城では左衛門大夫業政が病死して、その子業盛が采配を執っていた。