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せけんし
世間師
小栗 風葉
Read 世間師 (せけんし) by 小栗 風葉 (おぐりふうよう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,390 characters · 36 screens
四
私が礼を言うたび、
「なあに君、旅へ出りゃお互いさ。ここの宿の奴らあ食詰者ばかりでお話にゃならねえが、私ども世間師仲間じゃ当前のことだ。お互いに困りゃ助け合う、旅から旅へ渡り歩く者のそれが人情さ。」といつも口癖にそう言った。
四
同宿の者はいずれも名前を呼ばない。万年筆を売るから万年屋、布哇行を口にするから布哇、といったように皆渾名を呼合っている。私は誰が呼ぶともなく書生さんと呼び慣らされた。それから、私を貢いでくれるその男は銭占屋というのだ。銭占判断といって、六文銭で吉凶禍福を占うその次第書を、駿河半紙二切り六枚綴の小本に刷って、それを町の盛場で一冊三銭に売るのだ。人寄せの口上さえうまければ相応に売れるものだそうで、毎晩夕方から例の塗柄の馬乗提灯を点けて出かけて、十時ごろには少なくとも五六十銭、多い時には一円近くも握って帰ってくる。
で、同宿のほかの徒のように、土方だとか車力だとかいうような力業でなく、骨も折れずにいい金を取って、年の若いのに一番稼人だと言われている。同宿の者はこの男一人を目の敵のようにして、何ぞというと銭を使わせようと巧む。が、銭占屋も年こそ若いけれど、世間を渡り歩いている男だ、容易にはその手に乗らない。