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しぐれがさ
人情武士道
山本 周五郎
Read 人情武士道 (しぐれがさ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 24,700 characters · 51 screens
朋友と見込んで頼むと云われた以上、いや己の方がそう思っている。などとは絶対に云えないし、また恥を忍んでうち明けたものを拒む訳にもいかない、いくら考え直しても逃げ道はなかった。
気遣って色々と問いかける母を外らして、その翌る日、彼は胸に鉛のたまがつかえているような重い気持をいだきながら、いつもより半刻も早く出仕した。市郎兵衛は庭で小鳥に餌を与えていた。
「お早うございます」
「おお早いな」振返った市郎兵衛は、先日のことなどけろりと忘れたようすで、持っている頬白の籠を差出しながら云った。「こいつだよ、このあいだ逃げたのは」
「…………」
「いちばん馴れている癖に油断をすると直ぐにとび出す、鷹にでも掴まれたらどうする積りか、まるで気心の知れぬやつじゃ」
「実は……少々お話があるのですが」
「なんじゃ、聞こう」市郎兵衛は籠を置いて、如露でさあさあと灌水してやりながら促した、「……なんじゃ」
「此処では申上げにくうございますが」
「構わん構わん、なんの話じゃ」
「実は、……幸枝どののことですが」
市郎兵衛は如露を止めて振返った。老人の眼にはありありと、期待していたものにぶっつかった人の感動が現われた。