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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Read 光は影を (ひかりはかげを) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,262 characters · 276 screens
問題はたゞ、親きようだいの自然の愛情を、彼女がどういう風に、身ぢかに感じ、彼女自身がまた、親きようだいに対して、どんな種類の愛情を抱きつゞけたか、ということである。
愛情とは、まことに、微妙なものである。なんびとも、現に、どんな程度にしろ、心の奥底に分ちもつていながら、それが、なんらかの形に現れ、互いにそれをそれとして、素直に受け容れる機会がないかぎり、愛情は、かえつて、わずらわしい束縛、抵抗となるか、さもなければ、永久に冷たい人生の壁なのである。
京野等志は、そう考えると、妹美佐も不憫にちがいないが、第一に、両親が、それに気づかぬことが、あわれこの上もないものに思われた。
平山いくの述懐は、ひとの身の上から自分のそれに移つていつた。京野等志が案外よい聴き手であつたために、彼女は、調子にのつて、過去の苦労、現在の不満を並べたてた。そして、最後に、酒乱の父と強欲な母とをか細い女の手で養う手段は、どう考えてもほかにないと、なかば自嘲的にいい放つて、つと座を起つた。
世間話としてはおそらく、ありふれた、驚くにあたらぬ話かもしれない。だが、実際にそういう境遇におかれた女性が、その暗い影をこういう賑やかな饒舌の裏にかくしていようとは、彼には想像もつかぬことであつた。