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しょか(せんきゅうひゃくにじゅうにねん)
初夏(一九二二年)
宮本 百合子
Read 初夏(一九二二年) (しょか(せんきゅうひゃくにじゅうにねん)) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 3,549 characters · 8 screens
麗わしい晩春の日とともに
軽々と高く飛翔した私の心は
今 水のように地下に滲み入り
生えようとする作品の根を潤おす。
*
わが芸術のことを思い
その孤独さを思うと
私は 朗らかな天を仰がずには居られなる。
神よ、貴方が私に期待して被居るものは何ですか
何が、貴方の命令を満す資として、
私には与えられてありますでしょう?
当なく、茫漠として「夢は枯野を馳けめぐる」
けれど、一点 わが信仰は失せず
身を献げた犠牲台のように
朝に夕 只管清浄な煙を断やすまいとするのだ。
*
ああ、われは
献納の香炉。
ささやかな火は絶えず
立ちのぼる煙は やまねど
行くかたを知らず 流れ行く途も弁えない。
若しわが献げられた身を
神がよみし給うなら
寂漠の瞬間
冲る香煙の頂を
美しい衛星に飾られた
一つの星まで のぼらせ給え。
燦らんとした天の耀きは
わが 一筋の思 薄き紫の煙を徹して
あわれ、わたしの心を盪かせよう
恍惚と
六月二十二日
淋しい日々の生活――
あわれな 我良人は
蒼い顔をし 黙り
神経質に パタパタと手づくりの活字を押す。
私は、
笑うすべもなく
楽しい言葉のかけようもなく
ともに黙し 物を思う。