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しょか(せんきゅうひゃくにじゅうにねん)

初夏(一九二二年)

宮本 百合子

Read 初夏(一九二二年) (しょか(せんきゅうひゃくにじゅうにねん)) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 3,549 characters · 8 screens

Aozora Bunko

此を、深い考えとして、心に持つ。

考 (二)

創作をするにも

種々な動機が(内的に)あると思う。

或人はイブセンの如く

燃え立つ自己の正義感と理想とに

写る人間の愚悪に忍びず

詰問から、書く人がある。

或者は、ゲーテの如く(恐らく)

思索の横溢から

或は又、外界と調和し得ぬ

孤独な魂の 唯一の表現として

人類は、多くの芸術を献げられて来た。

さて、

私は何で、一つの小説を書くのだろう、

勿論、共通な、人間の、真に触れたい希望からだ。

然し、憤ってではなく、憂えてではなく

すべてのものを愛して――i・e、

子供のように

種々なものを、よろこび、好奇を持ち

手にふれ、ほぐし、あらためて

又組たてたくて、書くのではないか。

一つ一つ

新らしい現象を究める毎に

私は生命の知識が

それ丈拡がった歓びを 感じずには居られないのだ。

*

六月十六日

落付いて、小説を書くようになったら

又私の処から

詩らしい言葉の調子が逃げ去った。

詩は波、揺らぐ日かげ

理性は潜んで、静かにとける情操から

陽炎のように思いが きで燃え立つのだ。

けれども、小説は、全く一面の努力

頭を整え、思いをただし、

運命の神のように

我を失わず、描く人間の運命を支配しなければならないのだ。