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ほうがんさぶろうのしょうたい

判官三郎の正体

野村 胡堂

Read 判官三郎の正体 (ほうがんさぶろうのしょうたい) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,587 characters · 25 screens

Aozora Bunko

それにもかかわらず、その若い教授は、英子嬢よりも設計図に執着して、何遍も何遍も男爵に返還を迫って居たのです。

おまけに、――これは一番重大な事ですが――お鶴は深山の郷里から来た娘で、深山とどんな関係があるか誰も知らず、ただ、一方ならず深山を慕って居ることだけは、軽い嫉妬に敏感になって居る英子嬢ならずとも、邸中の者がみんな心付いて居ることでした。

「泥棒の手引をしたのはお前だろう」

本藤に突き飛ばされて、絨毯の上へ僅に顔を挙げたお鶴は、

「いいえ、私ゃあ、知らねエよ」

亢奮したせいか、少しばかり直りかけた田舎訛りが、すっかり生地を出してしまいます。

「知らないとは言わさん、手帳の中に書いてあった組合せ言葉を読んで、それを誰かに知らせたに相違あるまい」

「…………」

「サア、お前の手引をした相手は誰だ、言わないと警察へやって暗い処へ投りこませるぞ」

「私ゃア、何んにも知らないよ」

この娘が何を知って居ましょう、振り仰いだ眼は、天にまたたく星のように清らかです。

「本当に知らないな」

「本藤、そんな事で口を開かせようと思っても容易の事ではあるまい、可愛らしい顔をして居るくせにとても強情なんだから、もう少し何んとか工夫をおしよ」