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ほうがんさぶろうのしょうたい
判官三郎の正体
野村 胡堂
Read 判官三郎の正体 (ほうがんさぶろうのしょうたい) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,587 characters · 25 screens
七
ここの邸のハイカラな娘なんか、おれの目から見れば化物だ、心配するな、お前の方がどんなに美しいか知れはしない。――設計図を巻き上げられて居るので、仕方なしに婚約はしたが、おれはあんな化物と一緒になる気は毛頭ない。設計図だって、今になればどうでもいい。が、あの男爵の会社の手へはやり度くない、幸いおれの手に返ったから、あれを政府に献上して、お前と一緒に、元の茂さアになって山の中へ帰ろう。鱒を突いたり、猪を捕ったり、秋になればあんなに山が栗だらけになるし、山の芋も、トロロも、百合も、食い切れない程沢山ある、何が面白くて、こんな薄汚い町に居ることがあるものか……」
「本当かい、それは」
「ああ、本当とも」
「茂さア」
娘はもう「うれしい」とも言えませんでした、男の胸はグッショリ涙に濡れて、春の夕陽は、屋上庭園一パイに最後の光を投げて居ります。
七
ブルの首に付いた二本の鎖と、深山のしめたバンドと、お鶴の腰紐とを合せて、避雷針から五階の窓へ、丁度一本の命の縄が下りました。
それを伝わって、娘一人を運び下すことは、山男の深山茂に取っては、何んでもありません。
窓の中へ、お鶴の身体を抱き下した深山は、長椅子の上へ脱いで置いた上着を取って羽織ると、もうすっかり若い教授になり切ってしまいました。