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げきだん「わらうようま」
劇団「笑う妖魔」
山本 周五郎
Read 劇団「笑う妖魔」 (げきだん「わらうようま」) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,705 characters · 18 screens
ゆき子の行方
ゆき子の行方
校服を清楚な散歩服に着換えたゆき子は、
「ちょっと野河さんの家まで行ってくるわ」
と云い残して家を出た。
野河茉莉子の家は麹町五番町にある。富士見町のゆき子の家からはほんの三丁ばかりだから、歩いて行くかと思うと、町角にある出入りの吉田タクシーで自動車に乗った。そして、
「日東劇場の楽屋口へいって頂戴」
と命じたのである。
ゆき子は車へ乗ってもそわそわと落着かぬ様子で、何度も腕時計を見たり、口の内で独言を呟いたり、自分では気づかないらしいが額へじっとりと汗さえ滲ませていた。何か異常なことが起っている。然しそれなら何故、父にでも書生にでも云わないのだろう?
車は日東劇場の楽屋口へ着いた。
「有難う、家へは内証にしてね」
ゆき子はそう云って料金を払うと、そのまま狭い楽屋口を入って行った。
まだ午後三時頃であったが、廊下はじめじめと薄暗く、燭光の弱い電灯がぼんやりと光っている。まだ開演前なので楽屋番もいない。ゆき子は些と躊っていたが、思いきったように廊下を奥の方へ進んで行った。――と、右側に並んでいる小部屋(役者の化粧室)のひとつから、急に扉をあけて現われた男がある。