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きたのはてのちに
北のはての地に
風巻 景次郎
Read 北のはての地に (きたのはてのちに) by 風巻 景次郎 (かざまきけいじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 1,578 characters · 4 screens
じめじめとして陰翳の深い、ものの臭いのたなびく場所をひどくもとめる。人恋しいのである。札幌の街は乾いている。陰翳はきわめて少なく、ひどく明るい。その明るさは清く澄んでいて、人気からは遠い。
雲が厚い壁をつくって、くらい翳をやどしながら、銀に輝く綿毛のささべりを持って流れてゆく間から、のぞいた青空の明るく澄んだ色は、東京や大阪や九州やには見ることのできないものである。清く杳かで、人間の気を全く感じさせない。それはすぐ神秘に通じ、人を限りなく孤独にする。清潔であるが真空のように冷酷である。なにか、宇宙自体をじかにのぞかせるような気がする。
わたくしどもの文化は過去には北緯三十度圏の亜熱帯風の世界につくられた。そこではそよ吹く風も人の息吹のように、春の暖気も人肌を思わせた。もちろん土壌に密着した農業生産以外の所に立った社会などなかったのだから、人々は土地の湿気と※(「酉+慍のつくり」、第3水準1-92-88)気とのなかに半ば蕩酔しながら、官能を通してばかりの世界を感じていた。人と自然とは相即していたが対立はしていなかった。木にも草にも精霊が宿って少しもおかしくはなかった。