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きたのはてのちに
北のはての地に
風巻 景次郎
Read 北のはての地に (きたのはてのちに) by 風巻 景次郎 (かざまきけいじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 1,578 characters · 4 screens
雪がふると巷の音がしずかになる。わたくしはそれが好きだ。ことに夜がいい。窓硝子にしずかにとまろうとする粉雪が電灯の光にきらきらときらめいて煖炉だけがかすかに唄っている。お茶など飲みながら、がたくり椅子に凭れかかって、煤けきった天井を眺めていると、いつの間にか夜は更けてしまう。そんなときは心がしずまって、かえがたく好きである。遠くもない駅を出てゆくらしい汽車の汽笛が、なんのこだまもなしに遠い遠い感じで消えいそぐと、あとはあんまり洞ろで、人の心を内がわ深いところで孤独のはてに引きいれる。
北海道の冬にはなにか流刑地を思わせる強い力がある。平素はまぎれているから気がつかないのだが、静かさの支配する暗さの中で、遠い望郷の念が動きはじめる。言ってみればそれは激しい光線の反射しあう南の国への憧れである。超現実の光と線とのあやなす、それゆえ深く官能的な絢爛無比な幻耀世界へのいざないである。それがあまりに強いのでじぶんが縛された人間であることを思う。いわばあまりに光線が少なく、あまりに薄明の支配する、清く澄みきった静謐の周囲にたえられなくなるのである。
時にわたくしはうすく汚く濁った、人の気で蒸れるような場所をひどくもとめる。