Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
じゅうはちじのおんがくよく
十八時の音楽浴
海野 十三
Read 十八時の音楽浴 (じゅうはちじのおんがくよく) by 海野 十三 (うんのじゅうざ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 103,941 characters · 210 screens
軍用鮫
北緯百十三度一分、東経二十三度六分の地点において、楊博士はしずかに釣糸を垂れていた。
そこは嶮岨な屏風岩の上であった。
前には、エメラルドを溶かしこんだようなひろびろとした赤湾が、ゆるい曲線をなしてひらけ空は涯しもしらぬほど高く澄みわたり、おつながりの赤蜻蛉が三組四組五組と適当なる空間をすーいすーいと飛んでいるという、げに麗らかなる秋の午さがりであった。
楊博士の垂らしている糸は、べらぼうに長い。もちろんひどい近眼の博士に、はるけき水面を浮きつ沈みつしている浮標などが見えようはずがなかった。博士は、ただ釣糸の上を伝播してくるひそかなる弦振動に、博士自身の触覚感を預けていたのであった。
目の下二尺の鯛が釣れようと、三年の鱸が食いつこうと、あるいはまた間違って糸蚯蚓ほどの鮠(註に曰く、ハエをハヤというは俗称なり。形鮎に似て鮎に非なる白色の淡水魚なり)がひっかかろうと、あるいは全然なにも釣れなくとも、どっちでもよいのであった。釣を好むは糸を垂れて弦振動の発生をたのしむなり。いや弦振動の発生をたのしむに非ず、文王の声の波動を期待するのにあったろう。
楊博士は、近代の文王とは、誰のことであろうかなどと、つれづれのあまり考えてみることもあった。