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はんとういっきしょう
半島一奇抄
泉 鏡花
Read 半島一奇抄 (はんとういっきしょう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,324 characters · 27 screens
」
主人は苦笑した。
「しかし――修善寺で使った、あのくらいなのは、まったく見た事はない、と田京あたりだったでしょう。温泉で、見知越で、乗合わした男と――いや、その男も実は、はじめて見たなどと話していると、向う側に、革の手鞄と、書もつらしい、袱紗包を上に置いて、腰を掛けていた、土耳古形の毛帽子を被った、棗色の面長で、髯の白い、黒の紋織の被布で、人がらのいい、茶か花の宗匠といった風の……」
半ば聞いて頷いた。ここで主人の云ったのは、それは浮島禅師、また桃園居士などと呼ばれる、三島沼津を掛けた高持の隠居で。……何不足のない身の上とて、諸芸に携わり、風雅を楽む、就中、好んで心学一派のごとき通俗なる仏教を講じて、遍く近国を教導する知識だそうである。が、内々で、浮島をかなで読むお爺さん――浮島爺さんという渾名のあることも、また主人が附加えた。
「その居士が、いや、もし……と、莞爾々々と声を掛けて、……あれは珍らしい、その訳じゃ、茅野と申して、ここから宇佐美の方へ三里も山奥の谷間の村が竹の名所でありましてな、そこの講中が大自慢で、毎年々々、南無大師遍照金剛でかつぎ出して寄進しますのじゃ……と話してくれました。