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げんばくししゅう
原爆詩集
峠 三吉
Read 原爆詩集 (げんばくししゅう) by 峠 三吉 (とうげさんきち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,927 characters · 43 screens
河のある風景
朝
ように足早に通っていった
黒眼鏡の奥、皮膚のしわからにじみ出るものは、とおく渇れつくして
そのまま心の中を歩いてゆく
苦痛の痕跡であった
河のある風景
すでに落日は都市に冷い
都市は入江の奥に 橋を爪立たせてひそまる
夕昏れる住居の稀薄のなかに
時を喪った秋天のかけらを崩して
河流は 背中をそそけだてる
失われた山脈は みなかみに雪をかずいて眠る
雪の刃は遠くから生活の眉間に光をあてる
妻よ 今宵もまた冬物のしたくを嘆くか
枯れた菊は 花瓶のプロムナードにまつわり
生れる子供を夢みたおれたちの祭もすぎた
眼を閉じて腕をひらけば 河岸の風の中に
白骨を地ならした此の都市の上に
おれたちも
生きた 墓標
燃えあがる焔は波の面に
くだけ落ちるひびきは解放御料の山襞に
そして
落日はすでに動かず
河流は そうそうと風に波立つ
朝
ゆめみる、
閃光の擦痕に汗をためてツルハシの手をやすめる労働者はゆめみる
皮膚のずりおちた腋臭をふと揮発させてミシンの上にうつぶせる妻はゆめみる
蟹の脚のようなひきつりを両腕にかくして切符を切る娘もゆめみる
ガラスの破片を頚に埋めたままの燐寸売りの子もゆめみる、