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よせ
圓太郎馬車 正岡容寄席小説集
正岡 容
Read 圓太郎馬車 正岡容寄席小説集 (よせ) by 正岡 容 (まさおかいるる) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 147,226 characters · 295 screens
と言うと、楽屋でボーンと銅鑼を鳴らす。
「ア、火事や」
と言うと、本物の半鐘がジャンジャンジャン。
「廓へかかると陽気なこと」
こう言うと三下がりの騒ぎ唄や、七段目の茶屋場で使うような踊り地の合方を、華やかに下座が弾き出す。
「扇一本、舌三寸で、夜の更けたのも、花の咲いたのも、火の燃え上がるのも、マザマザとそこへ見せてこそ、ほんとうの『芸』じゃねえか。それをいちいちこんなに鳴物の手助けを借りやがって、名人も提灯袋もあるもンけえ」
噛んで吐き出すように今松は言った。
聴けば聴くほど、いやになった。
なかでもいちばん我慢のできないことは、落語家が高座へ上がってしゃべっている最中、ポンポンお客が祝儀を投げて寄越すことだった。
お紙幣のときはこれ見よがしに、青竹を細く削ってひとつに合わせた割箸みたいなものへ挟んで、赤前垂のお茶子が高座へ運んで持ってきた。
その割箸みたいなもののズラリとたくさん並べられるほど、ほかの連中へ鼻が高いというわけだった。
「手前から手前の品を落としてかかってやがら。いよいよお菰の仕草じゃねえか。いやだいやだ、下っちゃ怖えや」
こんな処置振りを見習っちゃ、先祖の花川戸の助六や幡随院の長兵衛にすまねえと、しみじみ今松はそう思った。