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ゆうがおのもん
夕顔の門
吉川 英治
Read 夕顔の門 (ゆうがおのもん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,956 characters · 29 screens
そこに一棟の鷹小屋がある。
這入るなとは主人に云われたが、戸が開いているし、何やら、人の気配がするので、由松は暗い中を覗いてみた。
白い顔が、傷負の側から振向いて、あっと、軽い声を洩らした。
由松も吃驚して、
『ヤ。御新造さまでは御座いませんか』
と、さけんだ。
お市は、手を振って、
『叱っ……静かにしておくれ』
『そこに、誰方か、怪我人が居らっしゃるのでございますか』
『わたしの襦袢を裂いて今、手当てしているところです』
『晒布も、金創薬も、焼酎もここへ持って参りましたが』
『え? 何うして』
『旦那様のおいいつけで……』
『……あ。……そう』
凝と、首をたれて、お市は俯向きこんでいたが、もう女の特有な度胸がすっかりすわったように、言葉のふるえも消えて、
『ここへ持って来ておくれ』
『へ、へい……。けれど、旦那様が、中へは這入るなと仰っしゃいましたが』
『かまいません』
『では――』
『それから、夜半になったら、済まないけれど、駕を二挺、そっと裏口の木戸へ呼んで来ておくれでないか』
『畏まりました』
『竹筒に水を入れて、駕へ括っておいておくれ。それから中に、油単や小蒲団をかさねておくようにね』