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よるのちょう

夜の蝶

山本 周五郎

Read 夜の蝶 (よるのちょう) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,345 characters · 21 screens

Aozora Bunko

三

「ひでえことをする野郎だ。首くくりの足を引張るような野郎だ」

「掠った金が八百幾十両、――子飼いから一人前にしてもらった恩を忘れ、あれほど想い焦れているお幸さんを棄てて」と六兵衛は深い溜息をついた。「まったくひでえ野郎だ。世の中にゃあ、ひでえ野郎がいるもんだ」

女は低い声で子守り唄をうたっていた。

三

「今晩は、――」

こう云って、中年の女が顔をみせた。四十ばかりになる、肥えた、髪の赭い女だった。

「ああ、お梅どんか」与平が云った。

「お幸さんなら、そこにいるぜ」

「どうも済みません。さっきから捜してたんですけどね」女はこう云いながら入って来た。「此処で子守り唄が聞えたもんですから」

「寮のほうじゃなかったのかい」

「明日が亡くなった旦那の祥月命日なもんですからね、それで帰って来たんですけど」お梅という女はお幸のほうへゆき、竹造と勇吉に挨拶をした。「いつも御迷惑をかけて済みません。さあ、お幸さん帰りましょう。お店に高どんが来ていますよ。高どんが来て待ってますから帰りましょう」

「大きな声をしないでよ」お幸は云った。「いま、やっと坊やが寝たばかりなんだから、ほらね、よく眠ってるでしょ」