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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
Read 夜明けの辻 (よあけのつじ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 42,801 characters · 86 screens
二の二
「おい孫次郎、向うを見よう」
「どうするのだ」
「あの上になにかある。急げ」
伊兵衛の足下で雪煙があがった。孫次郎も十郎兵衛もそのあとを追って走りだした。
二の二
元の場所へ引返した三人は、密生している熊笹を押し分け、その根に縋りながら、崩れたところを伝って崖を登った。
崖の上は杉林で、かなり急な斜面をなして権現堂のほうへ登っている。伊兵衛はなんども立止って、人声でも聞えはせぬかと耳を澄ました……しかし吹雪の咆えるほかにはなんの物音もしなかった。
「あっ見ろ。あそこにも……」
しんがりを走っていた十郎兵衛の声がした。三人の登って行くところから十四五間も右手に、雪まみれになって倒れている者があった……汗止めの白い帛が鮮かに三人の眼にしみた。
「二人で見てこい。おれは上へ行ってみる」
そう云い捨てて伊兵衛は斜面を駈け登って行った。
権現堂の迂回路はひっそりとしていた。しかし路上の雪はひどく踏荒らされ、ところどころに血痕が滴っていた……笹の葉のあいだに光っている物があるので、近寄ってみると抜身の刀だった。
また死体があった。
右手の櫟林へのめり込むようなかたちで、ほとんど折重なって二人倒れていた……近寄って傷所を検めると、一つは胸、一つは右の脾腹、みなひと突の深い刺傷である。