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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

Read 夜明けの辻 (よあけのつじ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 42,801 characters · 86 screens

Aozora Bunko

しかも自分が持っているもので、下僕も伴れずただ一人だった。

――しめた。

伊兵衛は頷きながら、相手が眼前に近づいたとき、つかつかと参道の上へ出て行った。

「来栖、待兼ねたぞ!」

突然そう云って行手を塞がれた道之進は、あっと低く声をあげながら二三歩退った。

「……誰だ、誰だ」

「なにをそんなに驚くんだ。おれだよ」

「……く、功刀……」

「伊兵衛さ、待っていたんだ」

「ではあの手紙は」

道之進がもう一歩退るのを、押えつけるように伊兵衛が叫んだ。

「止せ、逃げようとしても無駄だ。おれは貴公に訊きたいことがあって来てもらったんだ。訊きたいことを訊くまでは放さん」

「そんなら家へ来るがいい。なんのためにこんなことをするんだ」

「おれがいまどんな身上かということは知っているだろう、手間は取らせぬ。まあ、こっちへ来て掛けないか」

「縁談のことなら、拙者は知らんぞ」

道之進は懸命に、立ち遅れた自分を取戻そうとしながら、伊兵衛とともに茶店の中へ入って来た……伊兵衛が提灯を受取って、縁台の上に置き、道之進と相対して腰掛けながら、

「貴公が知らなくて誰が知っているんだ」

「母だ、母が独りでしたことなんだ」