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おおおかえちぜんのどくりつ
大岡越前の独立
直木 三十五
Read 大岡越前の独立 (おおおかえちぜんのどくりつ) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,968 characters · 24 screens
信祝は、寒さに、鼻の頭を赤くしながら入ってきた帯刀をみると
「済まぬ」
と、軽く、御辞儀をした。
「大事かな」
と、六十をすぎた帯刀は、すぐ火鉢を引寄せると、口早に聞いた。
「手を、お借りしたい」
「さあさあ、いくらなりと」
「天一坊の一件じゃが――」
と、声を落すと
「越前が――」
と、大岡越前守の意見を話して
「それで、彼奴の下役が、紀州へ行かぬ内に、何か、贋者だという証拠品を拵えておいて、使が行ったなら、それを掴ませて戻してもらいたいが、心の利いた、口の固い者を一人、二人――」
「うむ、御安い御用」
「そこで――」
と、信祝は、阪井右京の持って戻った書類を出して
「郡奉行に、村役人は、これは頭ごなしに、詮議不行届、天一坊は贋者で無いか、こういう証拠があるのに、前任者へ責任を転嫁させるとは、不都合千万と、叱ってもらえば、一も二もあるまい」
「成る程」
「庄屋、百姓の類には、流言をふり撒いてもらえば、無智な徒輩は、手もないて」
「うむ。万事承引、即刻、打ち立たせよう、越前の手とて、よも、今夜には、立つまい。これから戻って、早馬ならば四日路、町奉行手附では、十日はかかろう、よしっ」