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おおしまができるはなし
大島が出来る話
菊池 寛
Read 大島が出来る話 (おおしまができるはなし) by 菊池 寛 (きくちかん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,856 characters · 20 screens
苦学こそしなかったが、他人から学資を補助されて、辛く学校を卒業した譲吉は、学生時代は勿論卒業してからの一年間は、自分の衣類や、身の廻りの物を、気にし得る余裕は少しもなかった。
学生で居た頃は、彼はニコニコの染絣などを着て居た。高等程度の学生としては、粗服に過ぎて居た。が、衣類に対しては、無感覚で無頓着であった譲吉は、自分の着て居る絣が、ニコニコであるか何であるかさえ知らなかった。
そして豪放と云う看板の下に、自分の粗服を少しも気に掛けまいとした。実際また気に掛けても居なかった。
が、譲吉が一旦学校を卒業してからと云うものは、服装を調える必要を痛切に感じ始めたのである。彼が学生時代から、ズーッと補助を受けて居る、近藤氏の世話で××会社に入社した当初は、夫が不快になるまで、自分の服装の見すぼらしさを感じたのである。
夫は夏の終であったが、彼は、初て出社すると云うのに、白地の木綿絣を着て居るに過ぎなかった。
課長と、初対面の挨拶が済んでから、彼は同僚となるべき人々に、一々紹介された。
「岡村君に吉川君。」と、課長は最初に、二人の青年を紹介した。岡村と云われた青年は、中肉の身体にスッキリと合って居る、琥珀色の、瀟洒な夏服を着て居た。