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おおえどおうごんきょう

大江戸黄金狂

野村 胡堂

Read 大江戸黄金狂 (おおえどおうごんきょう) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 26,754 characters · 53 screens

Aozora Bunko

「あ、それは俺の守り袋だ、いつの間に――」

「ホ、ホホ、麓の茶屋で、これを抜かれたのを御存じなかったのでしょう」

「お前か」

「まア、まア、私が泥棒や巾着切に見えます?」

「外に誰も居なかった筈だが――」

「厄介の貝六という、日本一の厄介な男が、あなたの側でドブ六を呑んで、絡みついて居た筈ではありませんか」

「フーム」

「この守り袋の中に、命と釣替の大事なものが入っていることを御存じでしょう」

「いや、その中には臍の緒書が入って居るだけだ。今死ぬ身に用事のない品、親切気があるなら、そこらの草の中に埋めて人に跨がれぬようにしてくれ」

言い捨てて、山浦丈太郎は箱根笹の中に分け入るのです。

その巌丈な後ろ姿を照して、赤々と照る秋の陽、箱根全山の緑は老いて、何んとなく裏淋しい昼下りの風物でした。

「その臍の緒書きの上を包んだ紙片に御用はありませんか」

「要らない、そんな反古紙――」

「まア、これが反古紙、何が書いてあるか御存じもない?」

男の気楽さに、お滝も少し呆気に取られた様子です。

「知らない、もう俺に構うな」

山浦丈太郎は箱根笹を分けて、次第にその深みへ没し去ります。

「何んと云う呑気な人だろう、――お待ちなさいまし、旦那、山浦さん、――ね、あなたの力を貸して下されば、この勝負は此方の勝なのに、――ちょいと」