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だいぼさつとうげ
大菩薩峠2
中里 介山
Read 大菩薩峠2 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 195,601 characters · 387 screens
大菩薩峠
一
机竜之助は昨夜、お絹の口から島田虎之助の最期を聞いた時に、
「ああ、惜しいことをした」
という一語を、思わず口の端から洩らしました。
そうしてその晩、お絹は夜具を被って寝てしまったのに、竜之助は柱に凭れて夜を明かしたのであります。
その翌朝、山駕籠に身を揺られて行く机竜之助。庵原から出て少し左へ廻りかげんに山をわけて行く。駕籠わきにはがんりきが附添うて、少し後れてお絹の駕籠。
山の秋は既に老いたけれども、谷の紅葉はまだ見られる。右へいっぱいに富士の山、頭のところに雲を被っているだけで、夜来の雨はよく霽れたから天気にはまず懸念がありません。
お絹は駕籠の中から景色を見る。竜之助は腕を組んで俯向いている。
「百蔵さん」
お絹はがんりきのことを百蔵さんと呼ぶ。
「何でございます」
「まだその徳間峠とやらまでは遠いの」
「もう直ぐでございます、この辺から登りになっていますから、もう少しすると知らず知らず峠の方へ出て参ります」
「なんだか道が後戻りをするような気がしますねえ」
「峠へ出るまでは少し廻りになりますから、富士の山に押されるようなあんばいになります、その代り峠へ出てしまえば、それからは富士の根へ頭を突込んで行くと同じことで、爪先下りに富士川まで出てしまうんでございますから楽なもので」