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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Read 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,487 characters · 19 screens
お竹は白無垢のまま、パッと庭に飛降りると、物置の扉をコトコトと外から叩きました。
「誰だえ」
中でゴソゴソ仕度をしたらしい下男の宇太松は、手燭をかかげてガラリと戸を開けました。
「あ、お前は」
灯の前に立った神々しい白無垢姿を見ると、さすがに宇太松もギョッとした様子です。
「宇太松どん、私をつれて逃げておくれ」
「え?」
「私はもう我慢が出来ない。何処か気楽なところへ行きたい――山の中でも何でも構わないから、一緒に連れて行っておくれ」
「宜いとも――お竹さんはこの上もない良い人間だが、如来様にしちゃ可哀相だ――第一この家はろくでもない奴がウヨウヨしているし、山師坊主がまたお前を喰物にしているようだ。一日いれば一日の難儀だ――ちょうど今頃が逃げ出す潮時だんべい」
「有難う宇太松どん、私は如来様なんかになりたくはない」
「人間は人間商売に越したものは無いよ」
「宇太松どん」
「そのなりで道中はなるめえ、少し汗臭いが俺のよそ行きがあるから男姿になるがいい」
宇太松の出してくれた盲目縞の袷、腹掛け、股引、お竹は灯に背いて手早くそれを着ると、手拭で頭を包んで、白足袋にわらじをはきました。