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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Read 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,681 characters · 22 screens
が、それに構わず、
「芳江」
「――――」
「芳江」
忠弘の声に引寄せられたように、芳江はその手の中に飛込んで泣いているのでした。
「お帰りを願いたい、でなければ、伊予守様も非人の仲間になられて、此小屋に入られては如何。――何を隠そうこの黒川宗次郎は、御領地島原の郷士、島原の乱後新領主高力様の苛政に煩わされ、切支丹軍徒を匿まった罪とやらで人別を抜かれ、非人頭配下に落された者で御座る。御領主高力様御惣領の伊予守様が、我々仲間に入られれば誠に本望、黒川の祖先もさぞ苦笑いをいたすことで御座ろう」
「――――」
若い二人の恋愛情景を横目に、黒川宗次郎の長広舌は続くのです。
「見得も、義理も、付き合いも無い、乞食の暮しの長閑さはこの通り。行きたいところに行き、帰りたい時に帰り、橋の下も堂宮の縁の下もわが家にして、権勢にも富貴にも阿らぬ境遇の気楽さは食祿と家名に縛られて、牢獄の中にいる大名に比べて、どちらが本当の幸せであろう。それで三度の食事と風流には事欠かず、香もたけば歌も詠む」
「――――」
「仲間の者の義理堅さ、青天井の下に援け合う暮しの晴々しさは、権謀ときっ詐に浮身をやつす、大名高家とは雲泥の違いで御座るぞ。