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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Read 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,286 characters · 20 screens
出雲守頼門後に頼元が、ほんの五六人の家臣を召連れて、烏帽子岳に狩を催した時、思わぬ手違いから家来共と別れ、たった一人、烏帽子岳の深林地帯深く迷い込んでしまったことがありました。
この時頼門は二十九歳、絵に描いたような良い男であったということであります。微行とは言っても、三万八千石の大名の御曹司で出雲守と任官している位ですから、裏金の陣笠、地味ではあるが緞子の野袴、金銀の飾目立たぬほどにこしらえた両刀など、さすがに尋常ならぬものがあります。
時刻はもう夕刻近かったでしょう、毘沙門岳の方は夕映に染って、烏はもう塒に帰りますが、一度失った道は容易のことでは見付かりません。
密林は一歩一歩濃くなるばかり、幾百年の落葉の腐った大地は、深い毛氈のように足音を呑んで、時々猿酒の匂うのさえ、浮世離れのした物すさまじさを感じさせるのでした。
最初深林に踏み入った時、左右両方から聞えて来た鳥の声に誘われて、僅かばかり召つれた家臣は、二人、三人と散ってしまい、最後に残った二三人は、道を求めて麓と覚しき方へ下ったり、仲間の声をたよりに連絡のために主君の側を離れたり、気のついたときは、出雲守頼門たった一人、薄暗い密林の中を、山蛭に悩まされたり、蛇に脅かされたり、半ば夢心地で、フラフラと歩いているのでした。