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ぜにがたへいじとりものひかえ
奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選
野村 胡堂
Read 奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 31,249 characters · 62 screens
「その源左衛門が、妻恋坂の女のところへ行き着いたのは?」
「そいつはまだ訊きませんでしたよ」
「大事のことだ、廻り路になるが、妻恋坂へ行ってみよう、女の家を知っているのか」
「踊りの師匠のお雛の家で」
「それならわけはない」
平次と八五郎は、妻恋坂のとある格子戸を叩きました。
「ハイ、ハイ、どなた」
夜半近いのにまだ起きていたらしく、お雛は自分で格子の内に、手燭を持った顔を見せました。寝乱れてはいるが、なかなか豊満な良い年増です。
「明神下の平次だが」
「あ、銭形の親分さん」
「いや、ここで宜い、格子を開けるまでもないが――今晩平松屋の旦那が此家から帰ったのは、何刻だった」
「平松屋さんに、とんだ騒ぎがあったんですってね、使の人から聴きましたよ、一体あのお万さんが悪いんだわ、御内儀のお駒さんを、座敷牢なんかに追い込んで」
この女は源左衛門の妾のお万を、自分の敵のように思っているのでしょう。
「そんな事はどうでも宜い、俺は旦那の帰った時刻が聴きたいんだよ」
「亥刻半(十一時)近かったと思いますが」
「此家へ来たのは?」
平次にとっては、この後の問の方が大事だったのです。
「亥刻(十時)の鐘を聴いて、大分経ったようでした」