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ぜにがたへいじとりものひかえ
奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選
野村 胡堂
Read 奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 31,249 characters · 62 screens
が、そこを飛び越して、母家の二階から離屋の屋根へ来たところで、屋根を剥いで入る工夫はない筈です。
念のため提灯を差し込んで、離屋の縁の下を覗いて見ましたが、床下には巨大な土台をめぐらし、人間は愚か、小犬の這い込む隙間もありません。わずかに頑丈な窓の上に、幅五寸ほどの欄間はありますが、そこにも厳重な格子を打ってあるほかに、内側は三寸ほどの狭い板を並べた蔀になっており、よしやその引き違いの蔀を開けたところで、息抜にはなりますが、小猫の入るほどの隙間にもならないのです。
番頭と八五郎の案内で牢格子のような外側を見窮めたうえ、平次は離屋の中に入りました。入口の六畳、母家のお勝手に向いた方には、娘のお君が、恐怖と悲嘆に打ちひしがれながらも、精いっぱいの緊張で平次を迎えます。
十八というにしては、少しふけて見えるのは、言うに言われぬ苦労をしたせいでしょう。青白く引緊った頬や、思いのほか粗末な身扮も痛々しく、紅や白粉とは縁のなさそうな顔は、娘らしい可愛らしさを押し潰していながらも、生れつきの美しさは覆うべくもありません。
「気の毒なことだな、お嬢さん」
平次が面を俯せると、お君の眼にはサッと影が差します。