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ぜにがたへいじとりものひかえ
奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選
野村 胡堂
Read 奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 31,249 characters · 62 screens
八五郎が言ったように、顔には化粧の跡もなく、寝巻も至って粗末で、取乱し放題に乱しているのは、中年女の覚悟の体ではなく、窓の方二間も先へ放り出した短刀とともに、一つ一つが疑問の種です。
短刀はかなり業物らしく、焼刃の色も見事ですが、畳の上へ一寸ばかり突っ立っているのと、刃に血の跡もないのが不思議です。尤も鞘もすぐ傍に転がっております。
「これは誰のだ、見覚えはないか。番頭さん」
と訊くと、
「まったく見当もつきません、主人も見覚えがないそうで、たぶん御内儀さんが隠して持っていたものでしょう」
と番頭の為之助は答えます。
「主人の源左衛門を呼んでくれ、ここで訊きたいことがある」
平次が言いつけると、湯島の吉は黙って母家へ行きました。やがて、
「とんだ御苦労様で、私は主人の源左衛門でございます」
四十前後の、小柄ではあるが、なんとなく精力的な男が入って来ました。元は松平某と名乗った武家が、番頭の為之助ほどではなくとも、すっかり町人になりきって、町方御用聞の平次に対しても、なかなか慇懃なところがあります。
「とんだことでしたね、御内儀さんのこんな事になったに就て、なんか心当りはありませんか」