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ぜにがたへいじとりものひかえ
奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選
野村 胡堂
Read 奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 31,249 characters · 62 screens
「八、この傷をどう見る」
平次は真っ白な娘の膚に、不気味にはじけた傷痕を指さしました。
「棒で突いたようですね」
「いや、細身の刃物で、えぐったのだ」
「ヘエ、念入りなことをしたものですね」
「恐ろしい手際だよ」
死骸の玉の肌をもとの通りに包んでやると、平次は少し席を退って線香の煙の中に掌を合せます。
「何事も隠さずに言って下さい。娘さんが伊賀井家に上がるのを、はたからひどく嫌がった者がある筈だが――」
平次は父親の市兵衛を顧みます。
「みんな嫌がりました。娘は申すまでもなく、この私も、ここにいる妹も、伜の市太郎も」
「それほど嫌なものを、どうしてやる気になったのだ」
「親分、町人は弱いものでございます。金と権柄と、いやがらせと、脅かしと、攻手はいくらでもあります。同じ町内に住んで三千石の殿様に睨まれちゃ、動きがとれません」
市兵衛は娘をここまで陥し込んだ、大身の旗本の無情な要求を、娘を殺した下手人よりも憎んでいる様子です。
「昨夜のことを詳しく聴きたいが」
「私は帳場におりました、――このお吉の方がよく知っておりますが」
平次は妹娘のお吉の方を振り返りました。
「晩のお支度が済んだ時でした、――酉刻半(七時)の火の番の拍子木が通ったすぐ後だったと思います。