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ぜにがたへいじとりものひかえ

奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選

野村 胡堂

Read 奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 31,249 characters · 62 screens

Aozora Bunko

「これは驚いた。この殺しには下手人はないよ」

もとの清水屋へ帰って来た平次は、誰へともなくこう言うのでした。

「やくざの万次は?」

弁慶の小助は聞きとがめました。自分の縛った万次が無実では、少しばかり面目にかかわります。

「夜逃げの相手を殺す筈はないと思うがどうだろう、――お君はわざわざ着換えまでして、万次といっしょに逃げ出す気で飛び出している」

「市太郎は? 親分」

「あの男は尤もらし過ぎて怪しいが、お君はどっちみち自分のものにならないと諦めている様子だ。それに福寿院の境内からも、万次の後で引揚げている」

「すると?」

「お君を殺したのと、お滝を殺したのは、同じ下手人らしいが、刃物の使い方に変ったところがある、――それに物奪りではないし、怨みと思ったところで、若い娘が相手だから、色恋のほかにはない」

「――」

「お君を殺して直ぐお滝を殺せるのは、万次のほかにはないことになるが、お君の死骸の側にウロウロしていた万次は、その足ですぐお滝を殺したとは思われない」

「――」

「どうだ八、こうなると下手人がなくなるだろう」

「ヘエ、やっぱり鎌鼬かなんかで?」

「江戸に鎌鼬はいないよ」