Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
Read 女心の強ければ (おんなごころのつよければ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 47,011 characters · 94 screens
」
それだけで、石山はもう問題に触れようとせず、ほかの雑談を始めた。長谷川はいい加減にただ機械的な返事をするきりで、また千代乃の手紙のことを考えていた。その時、手洗に立った帰りに、あちらのボックスの奥に、一人ぽつねんとしてる柿沼治郎の姿を見かけたのである。駭然とも言える衝激を受けた。柿沼がこんなところに来てることが意外であったし、彼を見つけたことが、理屈ぬきに、更に意外だった。長谷川はちょっと後戻りして、まさしく柿沼であることを確かめた。それから席に帰ったが、もう石山に応答するのも全く上の空だった。
「どうしたんだい。彼女のことでも思い出したのかい。」
石山は微笑したが、その微笑もすぐ、怪訝な面持ちに変った。
長谷川は黙りこんで、柿沼と対決してやろうかどうかと考えていた。彼に千代乃を逢わせるくらいなら、自分が逢ってやろう……そういう熱っぽいしかし漠然とした感情が動いた。
地下室、と彼は意味もなく呟いた。
彼は顔を挙げて、石山に言った。
「もう出よう。」
「うん、久しぶりだから、ほかで飲み直そうか。」
「いや、もうたくさん。」
石山は勘定をして立ち上ったが、長谷川は動かなかった。