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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

Read 季節のない街 (きせつのないまち) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,379 characters · 394 screens

Aozora Bunko

「まあ聞いとくれよおよっさん、あんただから話すんだけどさ」

勝子は良江にこう呼びかける。そして、閨房の秘事までうちあけたうえ、誰にもないしょだよ、と念を押す。その口ぶりや表情には信頼と、深い親近感とがあふれていて、だから親きょうだいにも話せないことを話せるのだ、というふうに感じられるのであるが、実際には相手が良江でなくともいいのだ。そのとき話したい衝動がおこり、適当な相手がありさえすれば、どのおかみさんにも話せないようなことを話すのに、少しも差支えはないのであった。

これは良江に置き替えても同じことであるし、他のかみさんたちの多くにも当て篏まるだろう。たまたまそうでなく、二人だけ特に親しいとか、水道端のパーティーを好まないような者がいれば、「おへんじん」とか「おきちさん」などという悪評かられるすべはないのであった。

十月末の或る夜、九時ころのことであるが、河口初太郎の家へ増田益夫が酔ってあらわれた。

その日は二人とも、近来になくいい日当の仕事があり、帰りにはいっしょに一杯やった。そしていま、河口は妻の良江を相手に、またぐずぐずと飲んでいるところだったので、増田の顔を見るなり勇気づいて「ようあにい」