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やまとゆきのにっき

山と雪の日記

板倉 勝宣

Read 山と雪の日記 (やまとゆきのにっき) by 板倉 勝宣 (いたくらかつのぶ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 32,279 characters · 67 screens

Aozora Bunko

山と雪の日記

夏の日記

大正池

峰々の谷に抱かれた雪の滴を集めて流れて、梓川は細長い上高地の平原を、焼岳の麓まできた時に、神の香炉から流れ出たラヴァはたちまちにその流れを阻んだ。岩に激してきた水は、焼岳の麓の熊笹をひたし、白樺の林をひたして対岸の霞沢岳の麓に及んだ。いままでゴーゴーと流れる谷川の水はここにきて、たちまち死んだようになみなみとたたえた緑藍色の湖の中に吸いこまれて行く。その中に枯れた白樺の林が、ツクツク影を写して立つ。焼の麓の岸は急で、熊笹は水の中までつかっている。池の辺の熊笹は、丈より高かった。中をわけて行くと、ガサゴソと大変やかましい音がして、世の中は熊笹の音ばかりになってしまう。岸に出た。むやみと急である。ずれ落ちると濃藍の、このうすきみの悪い水に落ちなければならない。やっと、水の辺に下りて、やや平らな中に熊笹をわけて腰を下ろした。光線のさしこんだところはグリーンから底に行くほど、藍色に変って行く。そしてその中に、いわなの斑点のある身体が、二匹も三匹も動いている。鰭の動くのさえ鰓のひらくのさえ見える。この水の上に、小さな虫が落ちると、今まで下の方ですましていた奴が、いきなり上を向いて突進してくる。