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こうせつきょうほうずえ
巷説享保図絵・つづれ烏羽玉
林 不忘
Read 巷説享保図絵・つづれ烏羽玉 (こうせつきょうほうずえ) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 365,120 characters · 728 screens
つづれ烏羽玉
花吹雪
どこかで見たような顔だね
花を咲かすのが雨なら散らすのも雨。
隅田川木母寺梅若塚の大念仏は十五日で、この日はきまって雨が降る。いわゆる梅若の涙雨だが、それが三日も続いた末、忘れたようにからりとあがった今日の十八日は、浅草三社権現のお祭、明日が蓑市、水茶屋の書き入れどきである。
阪東第十三番目の聖観世音。
今も昔もかわらないのが浅草のにぎわいだ。軒堤燈がすうっとならんで、つくり桜花や風鈴、さっき出た花車はもう駒形あたりを押していよう。木履の音、物売りの声、たいした人出だ。
「おい、姐さん」
と呼びかけられて、本堂うら勅使の松の下で立ちどまった女がある。うらうらと燃える陽炎を背に、無造作な櫛巻き、小弁慶の袷に幅の狭い繻子と博多の腹合わせ帯を締めて、首と胸だけをこう背へ振り向けたところ、
「おや! あたしかしら?」
という恰好。年のころは廿と四、五、それとも七、八か。
「おうっ、嬉し野のおきんじゃあねえか。いやに早え足だぜ。待ちねえってことよ」
紺看板に梵天帯、真鍮巻きの木刀を差した仲間奴、お供先からぐれ出して抜け遊びとでも洒落たらしいのが、人浪を分けて追いついた。